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仙台高等裁判所 平成6年(ネ)400号 判決

控訴人

エヌイーシー商品リース株式会社

右代表者代表取締役

谷本祐之介

右訴訟代理人弁護士

小山田久夫

香高茂

被控訴人

日通商事株式会社

右代表者代表取締役

井上正典

右訴訟代理人支配人

吉田錠一郎

右訴訟代理人弁護士

伊藤直之

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の右取消しにかかる請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴の趣旨

主文と同旨。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

(不法行為)

一  請求原因

1 原判決別紙物件目録記載の物件(以下「本件物件」といい、個々の物件については「本件物件1」のようにいう。)は被控訴人の所有である。

2 控訴人は、本件物件1ないし8については昭和五七年四月二〇日から、本件物件9ないし14については同年九月二〇日から、食栄フーズ株式会社(以下「食栄フーズ」という。)にリースし、さらに昭和五九年六月二一日以降はマルミフーズ株式会社(以下「マルミフーズ」という。)にリースしてこれを占有し、被控訴人の所有権に基づく使用収益権を侵害した。

3 控訴人は、昭和五七年四月ころ、本件物件を新日本興産株式会社(以下「新日本興産」という。)から買い受け(ただし、形式上東北エヌイーシー商品販売株式会社(以下「東北エヌイーシー販売」という。)が中間に入った形を採った。)、その引渡しを受けて占有を取得したものであるところ、新日本興産は、被控訴人が本件物件をリースしていた株式会社太幸食品(以下「太幸食品」という。)から本件物件を購入し、控訴人は更に新日本興産からこれを買い受けたものであるが、本件物件は高額の設備機械であり、実際の取引ではこのような物件は所有権留保付き割賦販売や、リース契約により売買されるのがほとんどであるから、占有者が所有権を有していないことが多く、かつ、太幸食品や新日本興産はこのような設備機械の売買を取り扱う会社ではなかったから、このような場合、控訴人としては、本件物件を買い受けるに当たり新日本興産や太幸食品が本件物件を取得した契約内容や代金完済の有無を調査すべき義務があったのにこれを怠った過失により、被控訴人の所有権を違法に侵害した。

4 被控訴人が本件物件を他に賃貸すれば、原判決別表賃料相当損害金(リース料月額)欄記載の賃料を得られたから、被控訴人は、昭和六二年一二月二〇日までに、同表のとおり、合計五五一三万二六〇八円の利益を得る機会を失い、同額の損害を被った。

5 よって、被控訴人は控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、五五一三万二六〇八円及びこれに対する昭和六二年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

なお、被控訴人の所有権は、被控訴人が太幸食品との間のファイナンス・リース契約に基づき、そのリース料債権を担保する目的で有する所有権にすぎない。

2 請求原因2の事実のうち、控訴人が本件物件を食栄フーズ及びマルミフーズにリースしたことは当初は認めたが、否認し(被控訴人は右自白の撤回に異議がある。)、被控訴人の所有権侵害の点は争う。

控訴人のリースした物件は、被控訴人が太幸食品に対してリースした本件物件とは異なる。

控訴人はファイナンス・リース契約に基づいて、リース料債権の担保目的で所有権の移転を受けて本件物件の間接占有を取得したにすぎないから、これによって被控訴人の所有権を侵害するものではない。

3 請求原因3は争う。

控訴人が本件物件を新日本興産から買い受けたのは、食栄フーズに対するファイナンス・リース物件とするためであるが、リース契約においてリース会社はユーザーに対し物件購入資金を融資する実質を有するもので、購入物件の選定や価格の交渉はユーザーとディーラーとの間で行われ、通常この交渉にリース会社が関与することはないから、不法行為の成立に関し、リース会社である控訴人にディーラーやユーザーと同様の注意義務を課することは不当である。

なお、被控訴人は、後記善意取得の抗弁に対する再抗弁としての過失として同旨を主張するが、仮に善意取得における過失が認められたからといって、不法行為の要件としての過失があるとはいえない。

4 請求原因4は争う。

被控訴人が本件物件を所有していたとしても、それはファイナンス・リース契約に基づき太幸食品にリースしていたものであり、被控訴人は太幸食品に対するリース料債権を有しているので、損害が生じているとはいえない。少なくとも被控訴人の太幸食品に対するリース契約存続中は、被控訴人は太幸食品に対してリースすべき義務を負い、他の方法による使用収益をすることはできなかったのであるから、控訴人が本件物件を占有したことと被控訴人主張の損害との因果関係はない。

また、被控訴人の主張は、控訴人の食栄フーズに対するリース料月額をそのまま賃料相当額とするものであるところ、ファイナンス・リース契約においては、リース料は使用利益との対価関係に基づいて算出されているものではないから、失当であり、物件の価額に年五パーセント程度の期待利回りを乗じて算出すべきである。

三  抗弁

1 善意取得による被控訴人の所有権喪失

(一) 新日本興産は、太幸食品、ニチヤス産商、食栄フーズから本件物件を買い受けるに当たり、その引渡しを受けた。

(二) 控訴人は、新日本興産から本件物件を買い受けるに当たり、その引渡しを受けた。

2 被侵害利益の放棄ないし過失相殺

被控訴人は太幸食品に対するリース物件について同社が手形を不渡りにするなどしたことからリース料の支払が停止し、その支払のために食栄フーズに譲渡ないし賃貸されることを容認していたものであるから、太幸食品に対するリース料債権の担保目的での所有権を放棄したものというべきであるし、また、右事実を知らなかったとしても、これを容易に知り得たもので、本件物件が新日本興産に譲渡されるに至ったことについて過失があるから、損害額算定に当たっては右過失が斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の各事実は知らない。

2 抗弁2の事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1に対し有過失)

本件物件は高額の設備機械であり、実際の取引ではこのような物件は所有権留保付き割賦販売や、リース契約により売買されるのがほとんどであるから、占有者が所有権を有していないことが多く、かつ、太幸食品や新日本興産はこのような設備機械の売買を取り扱う会社ではなかったから、このような場合、新日本興産や控訴人としては、本件物件を買い受けるに当たり、売主が本件物件を取得したとする契約内容や代金完済の有無を調査すべき義務があったのに、これを怠った過失がある。

六  再抗弁に対する認否

争う。

(不当利得)

一  請求原因

1 控訴人は、昭和五七年四月ころ、本件物件を新日本興産から引渡しを受け、本件物件1ないし8については昭和五七年四月二〇日から、本件物件9ないし14については同年九月二〇日から、食栄フーズにリースし、さらに昭和五九年六月二一日以降はマルミフーズにリースして、原判決別表賃料相当損害金(リース料月額)欄記載のリース料を利得した。

2 本件物件は、被控訴人の所有であるところ、被控訴人は、控訴人の前項記載の占有により、昭和六二年一二月二〇日までに合計五五一三万二六〇八円の本件物件使用利益である賃料相当額を取得できず、同額の損失を被った。

3 よって、被控訴人は控訴人に対し、選択的に不当利得返還請求権に基づき、五五一三万二六〇八円及びこれに対する昭和六二年一二月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は、当初は認めたが、否認する(被控訴人は右自白の撤回に異議がある。)。

仮に控訴人のリースした物件が本件物件であるとしても、被控訴人が控訴人の利得として主張するリース料は、ファイナンス・リース契約上の対価であり、賃料相当額の使用利益とは異なる。

2 請求原因2の事実のうち、本件物件が被控訴人の所有であることは認めるが、損失の主張は争う。

不法行為に関する請求原因に対する認否4の記載と同じ理由により、被控訴人に損失が生じたとすることはできない。

三  抗弁

1 善意取得による被控訴人の所有権喪失

不法行為に関する抗弁1のとおり。

2 善意の占有者

控訴人は善意で本件物件を占有したのであるから、民法一八九条一項により果実収取権を有するので、不当利得返還請求権は成立しない。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1については、不法行為に関する抗弁1に対する認否のとおり。

2 抗弁2の事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1に対し)

不法行為に関する再抗弁のとおり。

六  再抗弁に対する認否

不法行為に関する再抗弁に対する認否のとおり。

第三  証拠

原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

一  不法行為による損害賠償請求について

1  被控訴人は、控訴人が被控訴人所有にかかる本件物件を買い受け、これをリース物件として占有することにより被控訴人の使用収益を妨げたことにつき過失があるから、控訴人には不法行為による損害賠償義務があると主張する。そこで、控訴人が食栄フーズ及びマルミフーズにリースしていた物件が被控訴人の所有の物件と同一であるか否かはひとまずおいて、これが同一であったとして、控訴人が本件物件をリース物件として取得してこれを食栄フーズ及びマルミフーズに占有させるに当たり、被控訴人の所有権に基づく使用収益を侵害し、不法行為を構成する過失があったか否かについて検討する。

2  乙第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし七、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし八、第一二号証の一ないし三、第一三号証の一ないし四、第一四号証の一ないし五、第一五号証の一ないし一〇、第三七ないし第三九号証、第四二号証、丙第一、二号証、第三号証の一、二、証人山科喜美、熊谷隆夫(第一、二回)、鈴木章雄(第一、二回)、千葉賢二の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一)  控訴人はリース業を営んでいるところ、その仙台支店の従業員である鈴木章雄に対し、月に二、三件程度のリース物件の取引を継続している取引先であり、機械設備を取り扱っている新日本興産の従業員の山科喜美から、春日商事という会社に中古のスパイラル急速冷凍タワーがあり、これを新日本興産が中に入って食栄フーズが三五〇〇万円くらいで買い受け、利府町内に新たな工場を建てて稼働する計画があるので、控訴人においてリースしてもらえないかとの話が持ち込まれた。鈴木は、新日本興産とは従来冷蔵庫管理システムや洗滌機の取引はあったが、冷凍機の取引ははじめてであり、また、金額も従来の取引に比較すると多額に上るものではあったが、長年取引があって信頼できる新日本興産からの話であったためこれを進めることとし、食栄フーズの重松実男社長から事業計画書等の提出を受けて所要の控訴人の本社での決裁を得た。そして、昭和五七年四月二〇日、新日本興産から控訴人の関連会社である東北エヌイーシー販売が代金二七五八万円で買い受け、更にこれを控訴人が同額で買い受けた形式を採った上で(このような取引形態は控訴人においては東北エヌイーシー販売の売上高を増やすためにしばしば採られていた。)、控訴人が食栄フーズに対して、期間を八四か月、リース料一か月四九万六五〇〇円でリースする旨のリース契約が交された。なお、鈴木は契約に先立って対象物件であるスパイラル急速冷凍タワーを利府町内の食営フーズの工場予定地において確認し、契約に当たっては控訴人所有のリース物件であることを表示するアルミニウム製のシールを貼付し、また、他者の所有物件であることを表示する証票のないことを確認した。

(二)  その後同年八月末ころ、山科から鈴木に対し、食栄フーズが静岡市のニチヤス産商という会社から追加購入したい物件があるのでこれも控訴人においてリースしてもらえないかとの話があり、鈴木は社内決裁の手続を進めたが、食栄フーズに対する与信額が多額に上ることから新日本興産の保証を徴することを条件に承認を得た。そして、同年九月二〇日、前回と同様東北エヌイーシー販売を経由した形式を採って新日本興産から冷凍冷蔵設備一式を六二〇万円で、ボイラー設備他一式を一七五四万円で、それぞれ買い入れた上、食栄フーズに対して、前者については期間を七二か月、リース料を一か月一二万一五〇〇円、後者については期間を八四か月、リース料を一か月三一万五七〇〇円とする各リース契約が交された。なお、鈴木はこれに先立って食栄フーズの仙台市銀杏町の工場において右各物件を確認し、契約に当たっては控訴人所有のリース物件であることを表示するアルミニウム製のシールを貼付し、また、他者の所有物件であることを表示する証票のないことを確認した。

(三)  なお、控訴人は、同様の取引として、昭和五七年六月一九日に冷凍冷蔵設備一式を、昭和五八年七月一〇日にコロッケ製造設備一式をいずれも新日本興産から買い受けた上で食栄フーズにリースしている。

3 被控訴人が、控訴人による占有使用が不法行為に当たると主張する物件は、控訴人が昭和五七年四月二〇日及び同年九月二〇日に食栄フーズにリースした各物件であることが明らかであるところ、右認定の事実によれば、控訴人は、食栄フーズが新日本興産を通じてその選定した物件を調達するについて、リース業者として作用を供与したものにすぎず、被控訴人主張のごとく同人がリースしていた太幸食品からこれを搬出して被控訴人の占有を侵奪することに関与したものでもなく、また、各物件を取得してこれを食栄フーズにリースするに当たっては、従来の取引関係から信頼をおけると判断された新日本興産から買い受けており、買い受けに当たっては、各物件はいずれも既に食栄フーズの支配下にあったと解される状況にあったもので、控訴人においてもこれを確認し、さらにこれらに他者の所有権を示す証票のないことをも確認していることなどからすると、控訴人の取得した物件が仮に被控訴人の所有であり、控訴人がこれを取得することにより被控訴人の各物件に対する使用収益を妨げたものということができたとしても、その故に控訴人に不法行為の成立要件たる権利侵害についての過失があったということは困難である。

被控訴人は、本件物件のような高額の設備機械は所有権留保やリース物件とされているのがほとんどであること、また、新日本興産がこのような設備機械を取り扱う会社でなかったことから、所有関係を慎重に調査すべき義務があったと主張するが、控訴人はファイナンス・リース業者として、ユーザーの選定した物件につきリース料債権回収の観点から物件の所有関係を調査するものであるから、被控訴人主張の右のような事情があるからといって他に第三者の所有を疑わせる特段の事情もない本件において、直ちに他人の所有権を侵害することのないよう慎重に調査すべき注意義務が控訴人に生じるものと解することは困難であるというべく、右主張は採用することができず、他に控訴人の過失を基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。

4  したがって、その余の点につき判断するまでもなく、不法行為に基づく請求は理由がない。

二  不当利得返還請求について

被控訴人は、その所有にかかる本件物件を控訴人がリースしてリース料を取得したことが賃料相当額の不当利得に当たる旨主張する。

そこで検討すると、仮に控訴人のリースした物件が被控訴人の所有であるとしても、控訴人が取得したリース料は、ファイナンス・リース契約に基づくもので、ユーザーである食栄フーズ等に対する金融の便宜を付与したことに基づき支払われるものであって、ユーザーの使用収益に対する対価ではないから、これにより直ちに賃料相当額を利得したと解することは困難である。

さらに、控訴人が本件物件をリース物件として占有したことにより何らかの利得を上げていたとしても、前記認定の事実によれば、控訴人は新日本興産から各物件を購入したことにより自らが権原を有すると信じたことは明らかであり、したがって、善意の占有者として果実の収取権を有する(民法一八九条一項)ので、右各物件についての法定果実である賃料相当の使用利益につき、これを不当利得として被控訴人に返還すべき義務を負うものではないから、抗弁1は理由がある(なお、控訴人が本権の訴えで敗訴したことの主張立証はない。)。

したがって、その余の点につき判断するまでもなく、不当利得返還請求権に基づく請求も理由がない。

三  結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきであるので、これと異なる原判決中控訴人敗訴部分を取り消した上、被控訴人の右取消しにかかる請求を棄却することとする。

(裁判長裁判官佐藤邦夫 裁判官佐々木寅男 裁判官佐村浩之)

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